Fukushima Nuclear Disaster
福島原子力災害を経た原子力のあり方
2016.3.9
2016年2月24日、東京電力は炉心溶融の定義が社内マニュアルに記載されていることを公表した。東電がマニュアルを5年間も隠蔽していたとマスコミは非難した。
5年前の2011年3月11日に発生した巨大地震を契機として、福島第一原子力発電所では3機の原子炉(1号機、2号機、3号機)の炉心が相次いで溶融し、水素爆発が発生し大量の放射性物質が環境に放出される原子力災害が発生した。
それにも関わらず、炉心溶融が東電から公表されたのは災害発生から2ヶ月を経た5月であった。データ解析から3機の原子炉では炉心にあった核燃料が溶融(メルトダウン)し、圧力容器から溶け落ちていること(メルトスルー)が明らかにされた。2016年2月の時点でも溶け落ちた核燃料の状態は不明の部分が多いが、1号機では核燃料の大部分がメルトスルーしているらしい。
東京電力の社内マニュアルには「炉心損傷割合が5%を超えていれば炉心溶融と判定する」ことが明記されていた。炉心溶融の定義を5年間も気づかなかったことは、原子力災害が発生した事態となっても東電が原子力安全神話から目を覚ますことができなかったことを指す。マニュアルの存在意義がなかったことになる。
もし、マニュアルの分量が膨大であったために気づかれなかったとしたら、マニュアルの作成、保管、周知などの安全管理システムに欠陥があったことになる。
なお、マニュアルどおりに炉心溶融が早く認知され、公表されていたとしても、原子力災害が軽くなることはなかった。それでも、事実を早く国民に知らせることに意味はあったと思う。
福島第一原子力発電所の原子炉本体は学校の理科の実験で使うフラスコに似た形をした大きな鉄製格納容器に収まっている。フラスコの首の部分に円筒形の圧力容器がある。炉心とは圧力容器内に装填された核燃料、制御棒、支持構造体などの集合を指す。
運転中の原子炉を緊急停止するとき制御棒が挿入され、挿入は2〜3秒で終わる。この時点で核分裂反応は停止するが、核分裂反応で生成された放射性原子核が崩壊する際に崩壊熱を発生する。崩壊熱は停止直後が最大であり、時間とともに減少する。
緊急停止後の数時間は大量の崩壊熱を除去するための冷却が極めて重要である。3.11の震災では1時間後に襲来した津波が海水ポンプを破壊し、冷却機能が停止した。しかも停電。冷却水の供給が止まれば圧力容器内の水は蒸発し、水面が下がり燃料棒が水面から露出した。
こうなると燃料棒の水面から頭を出した部分は熱放射による冷却と崩壊熱による加熱がバランスするまで温度が上昇する。その結果、ウラン酸化物燃料の温度が融点(UO2の融点は約2850℃)を超えるまで上昇し、燃料は溶けてしまった。従って、複雑な解析をするまでもなく3月11日の夜か翌日には炉心溶融が進行していたことを判断できたはずである。
3月11日に福島第一原子力発電所で進行していたのは、ジルコニウム合金被覆管の中で燃料ペレット(長さ1cm、直径1cmの円柱)が欠けたり、変形したりするような軽い事態ではない。そうした事態を想像することができず、損傷と表現すること自体が異常である。
要するに、核燃料の一部または全部が溶ける状態であるにも関わらず、「炉心損傷」という言葉を使用する背景には「炉心溶融」という深刻な事態を想像させない意図、真実を隠蔽する意図を感ずる。
例えて言えば、自動車が大破する自動車事故があったとしよう。それを事故で自動車が「傷ついた」と言われたら、車体の一部が凹み、引っかき傷が付いた程度を想像するのが普通であろう。ペシャンコに潰れた状態を想像することはないであろう。
福島原子力災害の発生から5年を経た2016年3月11日、福島第一原発の現状が報道された。その中に、炉心溶融(メルトダウン)を起こした1〜3号機原子炉の様子を表す図が出ていたので、そのコピーを図1に示す。
図1 福島第一原発1,2,3号機の現状 溶けた核燃料体の数は1,2,3号機の合計である。 (毎日新聞 科学の森 2016.3.11 http://mainichi.jp/m/?oMQwOS) |
現在、約7000名の作業員が廃炉の準備や汚染水対策のために働いている。廃炉作業を進めるには、メルトダウン・メルトスルーをした核燃料と支持構造体などが溶けて固まった瓦礫(デブリ)の情報が不可欠である。まずデブリがどのように分布しているのかの位置情報が要る。米国スリーマイルアイランド原発の経験では、デブリが非常に硬いとのことで、切り出しの方法の開発も要る。しかも放射線の線量レベルが非常に高い環境で行うため、廃炉作業は極めて困難であることが予想される。